解説|問いづくり

洞察してひらめきを得る

リサーチして集めたことがらを洞察して、問いを立てるよ

リサーチを通してたくさんのデータが手元に集まってきました。データをもとに、これまで見えていなかった新しい価値や課題を探ります。これをインサイトを発見する、洞察する、解釈する・・・と表現したりします。

これまで見逃されていたけれど、大切なこと

探索する」でも説明しましたが、インサイト”insignt”とは、Cambridge Dictionary 英英辞典によると「複雑な問題や状況を、明確かつ深く、時には突然理解すること(日本語訳)」。日本語にすると「洞察してひらめきを得た」という状態ですね。

「思いつき」ではなく、関係性や背景、当事者の経験や感情など、複雑に絡み合っている状況を洞察した上で、これまで見えていなかった新たな視点を発見するという「ひらめき」です。

小説やドラマに出てくる探偵も、聞き取りをしたり現場に行ったりしてデータを集めてもなかなか犯人に辿り着きませんよね。あるとき、データとデータがつながって「あっ!」とひらめくときがあります。探偵のような気持ちで探ってみてください。

ときに共感する力を活かして誰かの立場になり、俯瞰する力を活かして全体を眺めてみる。そうしているうちに、ひらめきがやってきます。ありきたりな視点ではありきたりなアイデアしか出てきません。だから、インサイトが大切なんです。

「そもそも」を疑おう

私たちはほぼ、何らかのバイアス(偏見)を持っています。先生だから◯◯だろうとか、高齢者だから◯◯だろうとか、同じ属性であっても経験や価値観は一人ひとり異なるのに、一括りにしがちです。集めてきたデータを見直すときに「当たり前」を疑い、「違和感」に敏感になりましょう。下記の問いについて、考えてみてください。

認知症の高齢者の家に、綿棒が開封されずに10箱くらい置かれていました。なぜだと思いますか?

「認知症だから買ったことを忘れて、何度も買ってしまう」と回答しましたか?確かにそうですね。でも、なぜ「綿棒」なのでしょうか。実は、耳垢が溜まって耳が聞こえづらくなっていたのです。でも、綿棒を買ってきても耳を掃除することを忘れてしまい、結果、綿棒が溜まっていたのでした。

そもそも、なぜその人はそんな行動を取ったのだろう、そう思ったのだろう・・・そもそも、なぜそんなルールがあるんだろう、そんな文化が生まれたんだろう・・・掘り下げることで、これまで見逃されていたこと(=インサイト)が見えてきます。

事例で理解を深めよう【春日台センターセンター】

問いづくりを事例で考えてみましょう。神奈川県愛川町に複合的な福祉施設「春日台センターセンター」があります。認知症グループホーム、高齢者デイサービス、放課後デイサービス、学習支援、就労支援事業所、誰でも利用できる小上がりやコモンルームなどが、緩やかにつながりながら運営されています。

実際に行ってみると驚くことがたくさんあります。認知症グループホームのリビングルームは全面ガラス戸で中が見えますし、高齢者デイサービスと誰でも利用できる「小上がり」は地続きでいつでも行き来できます。昔から地域で親しまれていたコロッケを販売する店舗には、近所の人たちが頻繁に訪れます。まちに開かれた、地域の人たちにとっての居場所となる施設なのです。

一方で、通常のグループホームやデイサービスはプライバシーの観点から閉じられた世界です。もちろん、ボランティアさんの訪問はありますが、基本的には誰もが自由に出入りできる場所ではありません。春日台センターセンターは、常識を超えた場所なのです。

なぜ、このような福祉施設が実現したのでしょうか。

まず、一般的な福祉施設について考えてみましょう。たくさんの人が出入りできるということは、当然リスクも増えます。感染症のリスク、徘徊のリスク、ケガのリスク、騒音・・・挙げればキリがありません。リスクを考えれば、できるだけ閉じておく方が安心です。認知症グループホームであれば、家族が認知症であることをオープンにすることに抵抗がある人もいるでしょう。

でも、そこで過ごす高齢者にとってはどうでしょうか。生活音や子どもたちの声は目に見えない刺激となって、高齢者の頭や心を活性化するでしょう。元気な子どもたちと直接的、あるいは間接的に交わることは、高齢者にとっても楽しい時間なのです(もちろん、個人差はありますが)。将来、子どもたちが当たり前のように受容する社会につながる可能性も高まります。

常識で考えれば、閉じた施設にする選択肢しかありません。でも、高齢者の生活の質、当たり前に多様性を体感する場を大切に考えるとまったく異なる選択肢が出てくるのです。「そもそも、高齢者は閉じることを望んでいるのだろうか?」「そもそも、認知症って隠すことなんだろうか?」と、「そもそも」を疑ったはずです。

これまでの福祉施設の概念を覆す・・・つまり、既存の福祉施設の「枠組み(フレーム)」を変えてしまったのです。これを「リフレーム」と表現することもあります。

データを可視化しよう

実は春日台センターセンターが生まれるまで、3年ほど地域の人たちとワークショップを行なっていました。まちについて話し合ったりお祭りをしてみたり、活動の中で課題や可能性が見えてきたそうです。*1 その結果をそのままにせず、リサーチや活動のアウトプットを構造化して冊子にまとめて可視化しています。*2

データを漠然と見ていても新たな視点は見つかりません。ポイントは可視化すること。頭の中で可視化できる人もいるかもしれませんが、可視化することで新たな気づきが得やすくなります。チーム内での共有でも必要ですよね。

KJ法でマッピングした例
インタビューから描き出した、もやもやマップ

関係性を描き、カギとなるポイントを見つける

地域にしても学校にしても職場にしても、さまざまな利害関係者で構成されています。また、起きている問題の原因はひとつではなく、複雑に絡み合っています。そのような複雑な関係性を表すために、地域曼荼羅、ループ図などが用いられています。

地域曼荼羅は環境省が提唱しているもので、地域の関係性を図で表したものです。下記は西粟倉村の曼荼羅です。先に紹介した、もやもやマップにも似ていますね。

出典:環境省

図で表すことによって、矢印が集中しているところがカギとなるポイントであることがわかります。要は、いろんなものと関係しているところです。カギとなるポイントに働きかけることで、関係しているところに変化を与えることができます。とはいえ、利害関係者が多いとスムーズに進みません。その場合は、小さくても影響の大きそうなところに働きかけるといいでしょう。

そのほかにも分析する方法はたくさんあるので、網羅的に知りたいという人はデザインリサーチ、サービスデザイン、システム思考に関する書籍を読むことをおすすめします。

*1 一般社団法人日本建築学会 2023年 日本建築学会賞(作品)受賞者記念講演会「作品を語る」
*2 TUB Tama Art University 関係から考えるデザイン トークイベントvol.01「春日台センターセンターの取り組み」

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